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東京地方裁判所 昭和44年(モ)18330号 判決 1970年7月20日

債権者 インタナル株式会社

債務者 有限会社スクールビル

主文

当庁昭和四四年(ヨ)第五六九五号債権仮処分申請事件につき当裁判所が昭和四四年七月五日した仮処分決定を認可する。

訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

一  債権者は、主文同旨の判決を求め、その理由として、次のとおり述べた。

1  別紙物件目録<省略>記載の土地建物(以下本件土地建物という)は債務者の所有であつたが、債権者は昭和四四年六月九日債務者代理人樋口泰章との間で、次のとおり売買契約を締結し、その所有権を取得した。

(一)  売買代金 八三〇〇万円

(二)  支払方法 契約締結とともに手付金三〇〇万円を支払い、内金四六七九万二八八〇円は同年七月一日までに債務者において本件土地建物を明渡し(但し、一階ないし六階は大倉電気株式会社居抜きのまま)、全ての負担を抹消したうえ所有権移転登記手続をなすのと引換えに支払う。残金三三二〇万七一二〇円は、債務者本件建物の賃借人である右会社に対して負担している保証金返還債務につき債権者が免責的債務引受をなすことによつて清算する。

2  前項の契約に基き、債権者は右契約締結と同時に債務者代理人樋口に対し手付金三〇〇万円を支払つた。

3  債権者は同年六月二一日および同年六月二八日到達の書面により、債務者に対し同年七月一日には約定通り内金四六七九万二八八〇円を支払うから本件土地建物につき全ての負担を抹消し、所有地移転登記手続をなす準備をしたうえ、取引時間を指定するよう通知したが、債務者は何らの回答をしない。

4  次いで債権者は同年七月一日債務者に対し額面金額四六七九万二八八〇円の日本信託銀行上馬支店長加藤温夫振出の預金小切手を提示して現実の提供をし、本件土地建物の明渡および所有権移転登記手続をするよう求めたが、債権者は第一項の売買契約の成立を争い、その受領を拒絶した。

5  ところで、債務者は第三債務者大倉電気株式会社に対し昭和三六年八月二四日付賃貸借契約に基き本件建物のうち三、四、五階を毎月末日限りその翌月分の賃料五七万三八〇〇円を支払う約で賃貸し、また昭和四三年七月一日付賃貸借契約に基き右建物のうち一、二階を賃料三九万六、〇〇〇円を右と同様の方法で支払う約で賃貸している。

6  債権者は昭和四四年七月一日本件建物所有権を取得し第三債務者に対する賃貸人たる地位を承継したものであり、債務者との第一項の契約においても右同日以降の第三債務者の賃料は債権者において取得すべきものとされているので、債務者に対し賃料取立禁止不作為請求訴訟を提起すべく準備中であるが、債務者は右賃料債権を取立てあるいはこれを処分する虞れがある。

よつて、債務者に対し、右賃料債権の取立または譲渡、質入その他一切の処分禁止仮処分を得たので、その認可を求める。

二  債務者は「当庁昭和四四年(ヨ)第五六九五号仮処分申請事件について昭和四四年七月五日なされた仮処分決定を取消す。本件仮処分申請を却下する。訴訟費用は債権者の負担とする。」との判決ならびに第一項につき仮執行の宣言を求め、債権者主張の売買契約の存在を否認し、その理由および抗弁として、次のとおり述べた。

1  債権者会社が設立されたのは昭和四四年六月一二日であり、債権者主張の契約締結の日には債権者会社はいまだ存在していない。

2  債務者は本件土地建物の売買について昭和四四年六月九日樋口に委任したのであるが、その内容は本件土地建物を一億円以上で売却することを含んでおり、また、債務者は樋口に対して本件建物のうち債務者会社代表者高橋コウが居住用として使用している部分の明渡に関する委任をしたことはない。しかるに樋口が本件土地建物を債権者に対し八三〇〇万円で売却し、かつ右明渡の約定をしたことは権限外の行為であり、このことは債権者会社の代表者高橋和夫も熟知していたのであるから、本件契約は無効である。

3  かりに本件売買契約が成立しているとしても、債務者は昭和四四年七月二二日債権者に対し債務不履行を理由に、本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。すなわち、右契約によれば本件建物の賃借人大倉電気株式会社に対する債務者の保証金返還債務につき債権者が免責的債務引受をすることにより売買代金の一部弁済をすることになつているが、債権者は右免責的債務引受をしておらず、従つて代金支払をなさない債務不履行があるから、約定により契約解除の意思表示をしたものである。

4  また、債権の処分禁止仮処分において第三債務者に対し弁済を禁止することは違法である。

三  債権者は、前項2の抗弁を否認し、3の抗弁のうち契約解除の意思表示があつたことは認めると述べた。

四  証拠<省略>

理由

一、成立に争いのない甲第一号証、第二号証、第四号証、第五号証、乙第三号証、第四号証証人樋口泰章の証言により成立の真正を認めうる甲第三号証、証人卯野忠方の証言(第二回)により成立の真正を認めうる甲第一九号証、第二〇号証の一、二、第二一号証、第二二号証、証人卯野忠方(第一、二回)、同樋口泰章、同高木新二郎の各証言、債権者代表者尋問の結果を総合すると、債権者主張の申立の理由1、2および4記載の事実ならびに5のうち契約上昭和四四年七月一日以降の大倉電気株式会社の支払うべき賃料は債権者において取得すべきものとされていること、債権者会社は本件土地建物を所有賃貸するのを目的として設立されるものであつたため、樋口および債権者会社の代表者に予定されていた高橋和夫の合意により、契約は便宜債権者名を用いてなされ、その三日後債権者会社が設立されたことが一応認められる。

二、債務者主張の抗弁2については、樋口の代理権にその主張のような制限があつたかどうかは暫く措き、債権者会社代表者高橋和夫が樋口の行為が権限外の行為であることを認識していたことを認めるに足りる証拠はないから採用できない。

次に、債務者主張の抗弁3については、債権者代表者尋問の結果によると、本件建物の賃借人大倉電気株式会社に対する債務者の保証金返還債務につき債権者が免責的債務引受をすることにより売買代金の一部三三二〇万七一二〇円の弁済をする約定については、債権者代表者と債務者代理人樋口との間で所有権移転登記手続をする前に右両者が右会社の代表者と会つて話合いをすることに取極められていたが、債務者がその前に代理人樋口を解任する通知を債権者にし、また債権者からの右登記手続履行の催告に対して債務者が何らの回答をしない等の事情変更が生じたため債権者が右債務引受を実行することができなくなつたことが認められ、債権者に故意または過失があつたとはなしえないから、債務者のなした契約解除の意思表示は無効であるといわなければならない。

三、次に債務者が第三債務者たる右会社に対し昭和三六年八月二四日付賃貸借契約に基き本件建物のうち三、四、五階を毎月末日限りその翌月分の賃料五七万三八〇〇円を支払う約で賃貸し、また昭和四三年七月一日付賃貸借契約に基き右建物のうち一、二階を賃料三九万六〇〇〇円を右と同様の方法で支払う約で賃貸していることは、債務者の明らかに争わないところであるから自白したものとみなすべきところ、前記判示のところからして債権者は昭和四四年七月一日本件建物所有権を取得したものと認むべきであるから、右により債権者は第三債務者に対する賃貸人たる地位を承継したものと認むべきである。

しかるに、債務者は売買契約の存在を争つているので、債務者に対し賃料取立禁止請求訴訟を提起することを前提として申立てられた本件仮処分申請は理由ありとして認容すべきである。

四、なお、債務者は、債権の処分禁止の仮処分において第三債務者に対し債務の支払いを禁ずる命令をするのは違法であると主張するが、債権の処分禁止仮処分は債務者に対し債権の譲渡その他の処分のほか第三債務者からの取立を禁止するものであつて、その趣旨とするところは債権の仮差押と同じであるところ、債権仮差押にあつてはその執行として仮差押事件にとつては第三者であるところの第三債務者に対し弁済を禁止する処分をすることによつてその効力を完からしめており、これは債権の性質の然らしめるところというべきなのである。債権の処分禁止仮処分においてもその効力を完からしめるためには第三債務者に弁済を禁止するのが適切であり、この点に関しては債権の仮差押の執行に関する規定が準用せられるものと解すべきである。仮処分においては第三者に対する処分をすることができないと解されてはいるが、それは仮処分によつて第三者の権利を侵害するような処分をすることができないということであつて、第三債務者たる立場において弁済を禁止されるのは右の意味での権利を侵害される処分にはあたらないというべきである。第三債務者としては、弁済を禁止されることにより遅延損害金の発生を免れることはできないにしても、債権者が確知できないという理由で供託してその責を免れることができる余地があるから、何ら不利とはならないはずのものである。実務上この種仮処分が慣用されているのも以上の理由に基くものと考えられるのであつて、かような仮処分命令は強制執行規定準用の埓外にあつて許さるべきではないとする債務者の主張は採用に値しないというべきである。

五、よつて、債権者の本件仮処分申請を理由ありとして認容すべきであるから、同旨の仮処分決定を認可することとし、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 西山俊彦)

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